石川真紀より、みなさまへ。
ご縁をいただいているドキュメンタリー監督:金 聖雄さんに、
最新作「アリランラプソディ~海を越えたハルモニたち~」のお話しを伺いました。
本作の舞台は、神奈川県川崎市の桜本。
金監督は、そこに生きるハルモニ(韓国語で、おばあさんの意)たちに、
四半世紀にわたり寄り添い続けておられます。
計3回の3回目を掲載します。
--- ヘイト(差別的な言動)に対抗するカウンター活動について。日本のカウンター活動には、皆さん、「ヘイトを一方的に垂れ流させてはいけない」という思いで参加されています。普段の生活では絶対に吐かないような言葉を口にするため、人格を変えてカウンター活動をしに。テレビニュースなどで、ヘイトとカウンターを「どっちもどっち」「ただうるさいだけ。迷惑」といった街頭インタビューのコメントが採用されてきたことを振り返ると、無知・無理解の問題の根深さを感じます。
金監督(以後:金):東京都武蔵野市の住民投票条例案の時(2021年)が、いい例だったと思います。何十年ぶりに右翼の街宣車が来て、議員がまたヘイトじみた宣伝を利用して、ひっくり返るっていうふうな前例があって。川崎市に(刑事罰付きの)ヘイトスピーチ条例ができても、相模原でさえ、津久井やまゆり園の事件がありつつも、かなり後退した条例文になってしまったり。市民活動は強行より慎重にした方がいいという旗を挙げたりして、やはり慣れていない、受け付けない土壌がある。普通、僕らの感覚からすれば差別しちゃいけないというのは当たり前なのに、差別をしてはいけないということを明文化することが、なぜダメなのか、理解できない。LGBT法案の時も、変な言い回しがあったじゃないですか。
--- 不当な差別、という。
金:正当な差別はあるのかっていう話ですもんね。制度の問題も政治の問題も、色々、渦巻いていて、何か一つを撃てばいいというものでもない気がします。
「花はんめ」のあと(金監督初監督作品。2004年公開。)も撮影を続けている中で、2015年にハルモニたちが戦争反対のデモをするっていうことがありまして(デモ直後、安全保障関連法案強行採決)。戦争を知らない人が戦争をダメだって言っても、それを経験している人たちの思いはやっぱりあって、素敵なデモだったんですけど、それに呼応するようにヘイトが。もちろんヘイトはもっと前から始まっていて、でも撮る気にはならなかったんですよね。基本的に僕はやっぱり、美しいものとか、いいものを撮りたいので、ヘイトは僕が撮ってどうするんだって、何をそこから表現するのかっていうふうに考えると、僕では消化しきれないなっていうのがあって、ずっと撮影っていう形では関わってこなかったし、撮るつもりなかったんですけど、川崎のハルモニたちのデモに対して、ある意味、挑発されたわけですから、そこを避けて通るわけにはいかないなっていう思いでヘイトを撮りに行って。結局は、まあ、何なんだっていう思い、後味の悪さしか残らないんですけれど、何かやらなきゃっていう思いがすごく強くなってきて。なんでこうなるのか分からないことの方が多いんですけど、端的に言えば、なんでハルモニたちが、日本に、川崎に来ざるを得なくて、ここで死んでいこうと、生涯を終えようとしているのかっていうことがスポッと抜けてるんだと思うんです。「花はんめ」の時は歴史は一切説明しないと思っていたんですけど、今回は実際に経験したハルモニたちの言葉と併せて、背景に何があったかを描くことが必要なんじゃないかなと。
普段は出会いの中で映画が出来ていくっていうニュアンスが強いんですけど、今回は作らなきゃっていう方が強かった。それは初めて。ウクライナやガザの状況をニュースで観ると、とても心が痛むし、ハルモニたちはまさにそういう経験をしてきた中で今があるわけで。世界で起こっていることを考えていくには、どうしたらいいかなと、自分なりに距離を縮めたいっていう感じですかね。少なくともハルモニたちが生きてきたことを肯定したいという思いが、すごくあるんですよ。ハルモニたちを尊敬します。
--- 日本の学校教育では近現代史をしっかり教わらずに大人になってしまいました。日本がしてきたことを知らない人を増やしてしまった。これは恥ずべきことであり、愚かなこと。自分から知ろうとしないと、知る機会が奪われていることを痛感します。
金:自分から知ろうとすると、情報のキャッチって難しいですね。ネットなどで偏った情報もあるし。そういう意味では、映画っていいかなと思うんです。ツールとして。それをきっかけに、みんなで、あれこれ話すことが出来ればいいかなと思うんです。
東京・新宿「K′s cinema」 上映期間延長~2024年3月8日(金)
☆その後、シネマ・チュプキ・タバタ(東京・田端)、横浜シネマリン、京都シネマ、
第七藝術劇場(大阪)、元町劇場(神戸)ほか
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