石田雄太さんインタビュー④
- Maki Ishikawa
- 2024年5月29日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年5月31日
石川真紀より、みなさまへ。
ベースボール・ジャーナリスト:石田 雄太さんとのインタビュー記事を掲載します。
(計4回の 4回目)
--- コロナ禍を経た省力化、効率化、コスト削減の流れの中で、オンラインの活用機会が増えるなど簡素化の傾向が強まる可能性は否めません。長期密着してインタビューを積み重ねる意義、また選手・アスリートにとってインタビューに応じるメリットを、どうお考えでしょうか。
石田 雄太さん(以後:石田): どれだけ本当のことを知ることができるかっていう、その貴重な機会がインタビュー。そもそも、本当のことっていうのは、本音ってよく言われるけど、僕は本音って本当のこととはちょっと違うと思っていて。この人、本音を口にしましたって言う時って、実は、こっちがそう答えてほしいなっていうことを口にした場合に、本音を言ったと思いがち。そこの基準って結構、勘違いしちゃうんだけど、如何に、この瞬間に口にしたっていうタイミングで口にさせるかっていうことが、まず一番大事。その時その時に堰き止めていくことで、材料が集まっていくと、後から振り返って矛盾していることがあったとしても、その時にそう言った理由は何かあるはずだから。そういうふうにして、こちらが本当のことを掴むためにインタビューしたり、生で観たり、時間を共有したりっていうことが、すごく大事なことだと思います。
ただ、ネットの社会になって1回でも多くクリックされることを求められるようになってくると、本当のことよりも面白いことの方が大事になってきちゃった。僕がよく言うのは、「イチローは朝からカレーを食べている」ということについて。でも、彼の人生の中で朝カレーを食べていたのは2年だけ、しかもその2年のうちの1年を見ると、シアトルでホームゲームがある時の朝昼兼用の時はカレーだった、シアトルで試合がある時って81日間、それが2年だから162回食べただけで、朝のカレー、いまだに言われているでしょ。彼がカレーじゃなくなった直後に、素麺の時期もあり、うどんを食べていた時期もあり、その後、パンが長い。朝はパン。今もパン。でも、イチローは朝パンってどれだけ書いても、全く浸透しない。つまり、インパクトがあって面白いことは、本当のことで上書きしようとしないんだよね、世の中が。実はパンなんだよ、なんて面白くないから、本当のことなんてどうでもいい、イチローは朝カレーでいいじゃん、っていうことになってしまう。
経費とかwebのおかげで、本当のことを知ることが、どれほど重要かっていうことが、どんどん失われていっちゃう気がしています。ネットにずらりと並んだ記事が、どういう出自の記事なのか確認しないで読むわけじゃない。情報がどんどん広く浅くなものばかりになっていっちゃっている中で、時間とストレスをかけて丁寧に作るっていうことが一番ないがしろにされてきちゃっている危機感は、すごくある。同時に、世の中が、本当のことを求めているのかっていうこともあって。受け手側だけでなく発信する側も、そんなにお金かけて本当のことを掴まなくたって、だいたいでいいですよっていう感じになってきちゃったから、僕らが積み重ねてきた、丁寧な、本当のことを知る作業っていうのは、どうでもよくなっちゃうんだろうな、そうすると、インタビューのやり方なんて、どんどん変わっていっちゃうんだろうな、と思う。選手の側も、自分で発信するツールを持っちゃうと、自分に都合のいいような話を発信していたり。それでファンが喜ぶ。別にフィルターを通さなくても、僕の言いたいことは充分伝わってるよって思う選手もいると思う。もちろん、それも大事だけど、第3者の目を通して、客観的とは言わない僕の主観ではあるけど、誰かに委ねて自分の姿を描いてもらうっていうことも、観てもらう仕事をしている人にとっては有意義なこともあるはずだからね。そういう存在価値はあるはずだと、自分の仕事に対しては信じているから、そことの鬩ぎ合い。まあ、僕ももう間もなく消えていくからさ、次の時代の人たちがそういうスタンスで仕事をしなくなると、本当のことを求める作業って、きっとどんどん無くなっていってしまうんだろうな。何が本当かわからないんじゃなくて、何が本当かなんて、どうでもよくなる、それでも困らない時代が来ちゃうと、僕は観ていてつまらないと思うけど、それでいいという人たちが増えていけば、そうなっていってしまうんだろうな、と。だから、発信する数が少なかろうが、プラットフォームとか真紀さんの媒体(こちらのblog)も含めて、発信してちゃんと読者に届く、ここでは本当のことが読めますよっていうところがどこかにないと、バランスが崩れていくんだろうなって思います。
--- 5年後、10年後に触れた時も新鮮に読める、新たな気づきが得られる、消費されないものが必要です。雄太さんのインタビュー、記事からは、人間同士の信頼関係と深い敬意が伝わってきますので、選手・アスリートのみなさんは、雄太さんと出会えてラッキーです。
石田: それはお互いに(笑)。仕事での付き合いだから、決して友だちではありません。周りからは、仲がいいからとか、友だちだからって、よく言われるけど、そんなふうに思ったことは一度もなくて、むしろ、そんなふうに思っちゃったら、この感じって続かない。分相応でいることが大事だと思っています。

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