石川真紀より、みなさまへ。
ベースボール・ジャーナリスト:石田 雄太さんとのインタビュー記事を掲載します。
(計4回のうち、1回目)
--- メディアにご出演いただく際は、取材対象である選手・アスリートに関する話題が中心ですが、いつか、雄太さんご自身がインタビューで心がけておられることを、じっくり伺いたいと願っておりました。
今回、取材依頼の連絡を差し上げたのは、ちょうど、大谷翔平選手がご結婚発表直後に雄太さんとのインタビューに応じられた記事(スポーツ総合雑誌「Sports Graphic Number」:以後、Number)がネット配信された頃でした。
石田雄太さん(以後:石田): 大谷くんが、僕だからしゃべってくれたのかって、僕にはわからないからね。同じ質問しているのに、会見ではそんなに答えなかったのに、僕と話している時は結構いっぱい答えたっていうことを、よく言っていただくんだけど、その理由はわからない。ただ、同じ質問と言っても、訊き方はちょっと違うかもしれない。(一般的に)会見とインタビューは似て非なるもので、もうちょっと突っ込もうと思って突っ込めるのがインタビューだから、インタビューという時点でアドバンテージがあると思います。会見は速報性・ニュース、僕のやっていることはニュースじゃないので、深掘りできるかもしれないけど、ニュースで出たものそのままじゃいけないっていうプレッシャーもあります。今はネットで直後に怒涛の如く情報が出て、そこからさらに1週間経って本が出ます、となる。しかも締め切りまでは1週間も時間があるわけではないので、準備の仕方とか、アプローチの仕方とか、ニュースの取材とは根本的に違うわけです。ニュースにはニュースの役割があるし、僕らには僕らの役割があるし、と考えると、今回のこと(大谷翔平選手の結婚発表直後の独占インタビュー)というのは、反響の大きさに、僕も正直ものすごく戸惑いました。大谷翔平という選手がすごく注目を集めている時に結婚というテーマだったから大騒ぎになっちゃったけど、野球に置き換えれば、ずっとそういうこと(インタビュー)をしてきているので、こんな感じになるとは、びっくりしました、本当に。
--- これまでのお仕事でも都度、反響はあったでしょうが、今回は珍しいケース?
石田: 似たような反響で言うと、桑田真澄さんが引退した時(2008年)。あの時は桑田さんも僕もフロリダに居て、テレビのインタビューという形で映像で収録したものをTBSのNews23で第一報を出した。あれが夜11時の番組で。桑田さんが引退しますって、世の中的には寝耳に水だったはず。夜11時っていう時間はスポーツ新聞が大騒ぎする時間だけど、時差があるし、スプリングトレーニングの真っ最中だし、桑田さん本人に裏を取る(確認する)までに6~7時間必要で、朝刊に間に合わない。結局、News23で、こう言った、という報道が、共同通信も含めて出たことがあって。僕は取材を始めた選手が野球をやめるところまで見届けることがすごく大事なことだと思っているから、テレビと活字両方で仕事してきて、ニュースとは違うってさっき言って、ちょっと矛盾しているかもしれないけど、いち早く彼の気持ちを映像という形でしっかり伝えることができたっていう意味では、テレビの仕事ではあれが反響が大きかった。それ以来かもしれないね、今回は活字だけどね。
--- 雄太さんを各球場でお見掛けすると、試合前の囲み取材などの輪に加わらず、遠くからそっと見守っていらっしゃる印象。毎回、しっかり会話できるわけではなくても、居合わせて見届けることが、選手たちとの信頼醸成に繋がる?
石田:それはね、出席を取るじゃないけど、そういう感じに意識していた時もあったけど、来てるよー!っていうのもダメだなと思うように。アイコンタクトしたりするのも、そんなの来てるよー!っていうのとほぼ一緒になっちゃう。そういうのはもともと好きじゃなかったから、あまりやってきていない。例えば2001年に、全くどこのギャランティーも持たずに、イチローくんを1年間ただひたすら見続けた時に、「インタビューする?」ってイチローくんに言ってもらったということがあって。あの時は、見てるよーって、ことさらアピールするつもりはなかったけど、結果的にそうなってたと思うのね。でも、3000本のヒットを打った時(MLB通算。2016年8月)に、彼は暫く何試合か打たなかった。あの時は、リオのオリンピックが近づいていて、オリンピックに行かなきゃいけないような人(メディア関係者)とか、それぞれ色んな事情があって早く打ってほしいてっていうのは多くの人が思っていて。で、マイアミで連戦があって、この間に打つと思ったら打たない。シカゴに遠征があって、シカゴでも打たない。結局、デンバーまで行って、そこで打った。試合も、そうしょっちゅう出なかったしね。試合に出ない日もある、試合に出ても打てない、その空気は本人も必ず感じてる。僕も日本から行っているわけだから、いつまで居たらいいか、難しいところじゃないですか。でももうね、試合前も試合後も、グラウンドに降りるのをやめたんです。居るとわかるだけで嫌だろうなと思って。メディアの動線を全く通らずに、お客さんの動線でチケットを買って試合を見て。彼の視界に入ることを完全にやめてみたんです。そんなの初めてでしたけど。それで、デンバーで打って、試合が終わって、会見の時にバッタリ会ったら、イチローくんが「えっ!?石田さん、居たんだ!」って言ったんです。おー、成功!と思って。その時に彼がどういう気持ちだったのか訊いたことはないけど、彼は「あの時の周りからのプレッシャーは凄かった」と言っていたので、その中の1人にならなかったというだけで正解だったんだろうなと。でも、自分の中でも正解が少しずつ変わってきて。最初の頃は、見ていることが(取材対象である選手に)わかる方がいいと思っていたけど、必ずしもそうとはかぎらない。そういう経験を経て今は、そんなこと関係なくて、この人は何を伝えてくれるんだろう、何を聞き出そうとしてくれているんだろうっていう、その心が伴わなければ。こちらに訊きたいことがあって、それが向こうの思いと一致すれば、もう関係ないっていうふうに思うようになってきた。行くことが仕事っていう人も居るから、それはそれでいいし。その辺の本質をいち早く掴んで、人の目を気にせず、自分の成すべきことをやればいい、そういうスタンスになるには時間がかかるんだなと。フリーランスになって30年以上経って、いつからそれができたかって言うと、わからない。僕は媒体から仕事を引き受けてやるわけだから、求められているのものを実際に世の中に出すために何が必要か考えてやっていくっていうのは、今はものすごく意識しています。
(記事は合計4回掲載予定。続きは5月15日に掲載予定です。)
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